デビュー作「ローマ帽子の謎」、エラリー初登場。作者とエラリーの間に距離感が垣間見え、ぎこちなくこなれていない感じ。一体感がない。が、その分描写は丁寧である。クイーン家の私室も丹念に描かれているのでイメージが湧く。ただエラリーは準主役っぽくて、大半がクイーン警視のことばかり。終盤間際エラリーは何と旅行に出かけてしまい、最後まで帰って来ず。旅先から、解決へと導く助言を電報で警視へ送って来るものの、解決の解説は警視が。役の振り当てがまだ決まってなかったのかな。
二作目の「フランス白粉の謎」、2階のどこかにはあるんだけど見つけ出せない。とばす。
「オランダ靴の謎」は国名シリーズ第三作目。病院内での殺人事件。エラリーは名探偵の役を一生懸命演じている感じ。犯人は結構早い時点で登場していたが、すっかり見過ごしていた。変わってるのは、途中の一章、ページ下部に余白を設けている。エラリー達が事件を見直している章なんだけど、読者も余白にどうぞメモを取って下さいという意図らしい。若気の至りで何かしょうもないことを書き込んでいるんじゃないか案じたが、未記入で安心。恥ずかしいもんね。登場人物紹介欄に「マイケル・カダーイ…街のダニ」とあったが、あんまりな紹介だ。昔の本は面白いよ。最後の訳者についての記載には、翻訳者の現住所がはっきり印刷されていたし、今なら信じられないな。
「ギリシア棺の謎」は時期が遡り、エラリーがまだ警察からの信頼を得ていない頃の事件。全くの若造扱いで、父親の警視ですらエラリーの差し出がましさを苦々しく感じている。先走った推理があっけなく崩されしょげかえるけど、結局「自分の中で全て論理的に破綻しない解決を見出すまでは、あやふやなことは口に出さない」信念が確立されるプロセスが描写されているので、本書は大切な道標である。本は割と厚味があって、内容も込み入っている。2件の殺人と絵画盗難の犯人は同一人物である、と証明していくのだけど、こっちも真剣に集中しないと置いて行かれちゃう。しかしとにかく一番最初に買ったクイーン本なので、感慨深いものがある。原書を読みたくなった。 Amazon で探すが、クイーンってクラシックなんだなぁ、考えてみれば当然か。江戸川乱歩の頃に日本に入って来たんだから、古典も古典。殆どが中古本でしか売ってない。ペンズラーさんが reprint版の「エジプト十字架の謎」を来年出すようだが、乱歩が一時期流行った、そんなノリなんだろうか。
そして最後まで読んだのかすら怪しい「アメリカ銃の謎」へと進む。中身は妙に綺麗だが、ある個所には果汁と思しきシミ…読んだのだろうか、私? 非常に時代を感じる内容で、禁酒法時代。TVはなさそうで、映画館でニュース映画を流している時代。現場でたまたまクルーが一部始終を撮影していて、後日捜査の参考にニュース映画を観るエラリー。しかしフィルムを編集していることを知らなかった。今なら誰でも知ってるよね。しかし真犯人にまたしても最後まで気付かず。こんな手はありがちだよ。なのに気付かない、裏を返せばスレていない私。
シリーズ中、最も好きな「スペイン岬の謎」。登場人物紹介欄に再び暴言。「ローラ・カンスタブル ふとって、気違いじみて、40歳」って…、あんまりだ。本文にもカンスタブル夫人の描写は「人間でできた屋形船」「でぶでぶの琺瑯引きの面」…、まあね、たやすく人物が想像できるのは良いけどね…。2002年発行のハヤカワ新訳版「スペイン岬の秘密(大庭忠男訳)」では「ローラ・コンスタブル 肥った、のぼせ性の女、四十女」と訳されていた。章題も創元では「独楽使い小間使いの驚くべき告白」がハヤカワ「独立独行(セルフメイド)のメイドの驚くべき告白」と、新訳では出来るだけ違うように、と気を使ったのかと思う言葉遣い。「名にしおう性急やの時と潮」⇔「悪名高き時と潮の性急さ」、「夜、濃青色の猟人」⇔「夜、ダークブルーのハンター」みたいに。創元の方が好きだな。
「スペイン岬」が国名シリーズ最終作、とされることもあるが、創元では「ニッポン樫鳥の謎」がシリーズのトリになっている。雑誌に発表された時は、The Japanese Fan Mystery ってタイトルだったのが単行本刊行時には The Door Between に変えられていた。大戦の社会情勢を考慮してか、と解説にはある。創元では最初のタイトルを鑑みて国名シリーズに組み入れ、更に「扇」は無関係として「ニッポン樫鳥」と独自にタイトルを付けた経緯も説明されていた。
11月からちびちびと読み進めて来たが、再読して良かった。今となっては目新しい展開ではないんだろうが、やはり古典というか原点に触れるのは逆に新鮮。訳について云えば、さらりとこなれた新訳よりも、固い感じの残る昔の訳の方が私は好き。原書を読んだことがないので、本来どんな雰囲気なのか判らないが、ぎこちなさのある訳文の方が、翻訳って感じがして合っている気がする。今は流通している単語も、当時は馴染みがなかったのか、訳注が入ってるのも面白い。オーガンジー(布地の名)、バンダナ(スペインふうの大型スカーフ)、なんて具合に。
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